特定非営利活動法人 ヒューマンインタフェース学会

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- そのほかの活動記録 -

若手によるパネル討論会 京都リサーチパーク(2004年)

(大阪大学 土方嘉徳)

従来から情報科学の分野では,研究者のタイプは「理論系」と「実装系」に分けることができた.HIの分野では,前者は認知科学や社会学における知見や方法論の導入による人間系のモデル化が進み,後者は実世界指向IFやユビキタスコンピューティングなどの「脱 GUI」の流れを受けて,ソフトウェアに留まらずデバイスの実装も含むようになってきている.つまり,研究者のタイプも「モデル系」と「デバイス系」に分けることができると思われる.本パネル討論会では,モデル系若手研究者として杉原太郎氏,狩川大輔氏,伊藤京子氏を招き,デバイス系若手研究者として木村朝子氏,寺田努氏を招き,それぞれの立場や信念などについて議論を行った.

 

まず印象に残ったのは,一口にモデルとは言っても,その役割や内容は様々だということである.杉原氏は実データからニューロモデルで学習することを目指し,伊藤氏は社会学の知見を基にした情報提示手法を提案し,狩川氏は制御や実装のためではなく,モデルを基に設計者や現場ユーザが協調し合い設計を行うことを目指している.これらのことから,工学者としてのモデルの扱い方としては,他分野で確立されたモデルを実装するケースと,上記モデルを工学的設計のために利用するケース,データから自動構築するケースがあり,他に観察実験により一般化するケースも考えられ,単純にひとくくりにするのではなく,慎重に議論する必要性を感じた.デバイス系からは,木村氏は馴染みのあるメタファを利用した情報操作デバイスを提案し,寺田氏はウェアラブルPCの様々な応用を,デバイス系らしく実際にウェアラブルPCを装着して説明した.同じデバイス系ではあるが,一方は頭の中に描いているたくさんのモノを次々と実現していくのに対し,もう一方は一つの環境を多様なドメインに適用していくという違いが見られた. 会場を交えた議論では,モデル系に対して「モデル化ニは楽しいか?」や,デバイス系に対して「おもしろければそれでよいのか?」と言った素朴ながらも誰でも聞いてみたい質問も飛び出し,盛り上がりを見せた.

 

これらの議論から感じたのは,「両者にはアプローチの違いこそあれ,目指すところは同じなのでは?」と言うことである.デバイス系研究者はモノを実現することから始めてはいるが,それがどう使われるのかやその社会的効果まで見据えており,実際にはコトの追求を含んでいる.モデル系研究者もモデルの構築から始まるものの,その実問題への適用を目指している.本議論が両研究者にとって,また聴講してくださった参加者にとって,何かの参考になれば幸いである.