特定非営利活動法人 ヒューマンインタフェース学会

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第4回研究談話会 活動報告



テーマ 「Webアクセシビリティ研究の未来を拓く」
・日時:2008年11月15日(土)14:00~17:40
・場所:(株)ミツエーリンクス 18階セミナールーム (新宿)
・参加者:36名

(株)ユーディットの梅垣正宏氏の提案により「Webアクセシビリティ研究の未来を拓く」というテーマにて,SIGACI第4回研究談話会ならびにITRC第30回 UAI研究会の合同研究会を開催した.視覚障害のある当事者の方,視覚障害の方を支援するボランティアの方,企業や大学などの研究者・開発者といった様々な方々が集まった.当日は,研究談話会のプログラムならびに各講演の概要をまとめた資料を配布した.

【本研究会の主旨説明】 梅垣正宏(ユーディット)
Webアクセシビリティに関する書籍が出版されてはいるが,その定義はまだ十分ではない.自由な立場でこれらに関して議論していくことが本研究会の目的である.

【第1部】「問題提起」
渡辺隆行 (東京女子大学)
JISガイドラインの策定に携わって感じたことは,WCAG2.0でも例えば文字と画像のコントラスト比なども定義されているが,その数値に根拠がない.現実では,デザイナーはデザインだけでユーザのメディアまで考えておらず, JISガイドラインを都合よく適用していたり,評価ツールだけで判断していたりする.また,メジャーなスクリーンリーダにWeb利用機能が欠けている.さらに,Webアクセシビリティに関する研究においては,思いつきで行っていたり,同じテーマが繰り返されていたり,ガイドラインの勉強不足だったり,客観性にかけていたりする.実験デザインに関しては,適切なコンテンツを作成できているか,被験者が集めにくければ被験者内実験にしどんなデザインにすべきか.例えば,JAWSでの実験ではユーザが少ないので被験者を集めるのは難しい.評価・分析方法はどうすればよいか.研究を進める上で,調査による基礎的な統計も必要である.技術開発としてはフリーの音声合成や,教育普及には教育現場の教育者・カリキュラムなどが必要である.

【第2部】発表
「音声インタフェースとWebアクセシビリティ」
西本卓也(東京大学)
この20年見ていると新しい技術がいくつも生まれてきたが,やはり残っているのはインタフェースの基本を踏まえているもの.労力をいかに減らすか,わかりやすくする,やったことのフィードバック(透過性),エラーに対する頑健性が基本原則と考えている.それに加えて,初心者,熟練者の使い方を反映した設計をインタフェースの構成原則と呼んでいる.ノーマンの7段階モデルは,目標,意図形成,行為系列の特定,実行,知覚,解釈,評価からなる.実行と評価の対応で不自然な例としては,キー操作に対する音声(フィードバック)の遅れや超早口で音声を聞いたり,リンクを次々にジャンプしており,これらへの対応を考える必要があるのではないか.また,視覚で作ったものを無理やり音声に置き換えていると,いろいろとおざなりになっている.最近,雑音環境下での音声の聞きやすさを計算によって求める研究があり,音声の了解度を工学的に作っていけるか期待している.さらに,HTMLの表面的なデザインを反映するのではなく,タスクの本質的な構造に基づく設計を考えていくべきだと考えている.

「ロービジョンの読みとWebアクセシビリティ」
小田浩一(東京女子大学)
ロービジョンとは,メガネがあっても生活に支障がある状態とされており,日本に30万人といわれるが重度しか対象としておらず,世界では6000万人といわれている.症状としては,視力が低い,かすむ(コントラストが下がって見える),まぶしい・暗い(明るさに対する不適応),視野が狭い,中心が見えないなどがある.読み書きの際は,ルーペや拡大読書器が使われており,正常な読み能力(速度)が発揮できる範囲(フォントサイズ)が狭くなっている. Webというのは拡大・白黒反転などができるので,視覚障害者の読み書きには支障がないように思われるが次のような問題がある.文字の大きさ(30ポイントだと画面に2文字しか入らない),ナビゲーションの問題,レイアウトの問題,図の問題(触地図を作るのと同じような技術で単純化する研究がある),見やすいフォントや配色(見易さを重視すると使えるフォント・色が減ってしまう),見える範囲に調整するのが煩雑,音声との同期などがある.

「聴覚障害者の認知とWebアクセシビリティ」
生田目美紀(筑波技術大学)
Webガイドラインにおいて聴覚障害者に関する内容を探すと,音声の情報は他の何かでわかりやすく出すなどがあるが具体的にどうすればよいかわからないため,聴覚情報の支援について研究を始めた.健常者と聴覚障害者を対象に,Webを閲覧してもらって自動車の好みの色を選んでもらうという実験を行った.Webを閲覧している際の視線の動きを分析したところ,健常者はページ内のコラムの区切りを明確に理解できていたが,聴覚障害者はその区切りを判断することができていなかった.その結果,聴覚障害者にとっては,リンクのラベルが直感的に理解できる,コンテンツの構造が視覚的に理解しやすくする必要があると考えられる.発表に対して,Webページの内容を理解する際は,聴覚障害というよりも日本語の能力に依存するのではないかという質問があった.今回の実験では,日本語の得意・不得意はあるが,学力レベルは同程度とみなして行った.逆に視覚情報の理解に関してろうの方のほうが能力が高いというような結果がでると面白いのではないか.

「IBMにおけるWebアクセシビリティ研究」
高木啓伸(日本アイ・ビー・エム)
Webアクセシビリティに関する研究は,ワトソン研究所と東京の基礎研究所で行っている.初期の頃のスクリーンリーダは,ダブルコラムをそのまま横に読むなどとにかく画面情報を読んでいた.その後,ホームページリーダが日本で製品化され,そののち米国で製品化された.さらに,google mapで ajaxが出現し,ブラウザの中でシミュレートされたGUIの音声化にとても悩んだが,これまでのスクリーンリーダの研究が役立った.現在,動画,モバイルインターフェースなど直面している問題は数多い.新しいアクセスモデル,オープンソースモデル,ソーシャルコンピューティングの観点で考えている.ソーシャルネットワークを使ってアクセシビリティを向上する動きが世界中である.日本のナイーブネット,米国のbookshareなどの方法をwebに応用できないかという考えから,「ソーシャルアクセシビリティ」を考案した.ユーザがアクセシブルでないページを報告すると,ボランティアの誰かが修正データをサーバにアップする.ユーザがそのメタデータをブラウザに読み込むと,修正されたwebページを読むことができる.


【ディスカッション】

・企業にてアクセシビリティについて検討しているが,今一番難しいのはコントラストの問題と考えている.デザイン・開発・評価をしているが,コントラスト比に関してはやるしかないと思う.世界的にやってみて問題点を出してよくしていくしかないのではないか.アクセシビリティは読み上げが問題になっていて,ロービジョンが手薄という印象がある.

・アクセシビリティの達成には,ガイドラインに沿ってあるレベルをクリアすればよいという考え方もあれば,ユーザ中心設計でユーザを知っていくという両方のやり方があると思う.ユーザの視力が加齢とともに低下するなど,ユーザの状態(特性)が変わっていってもついていけるようなものにしていくことが必要ではないか。

・ビジネスから見ると,アメリカの508条のように社会的な機運を高めて欲しいと思っている.JISはまだ拘束力がない.2004年にJISができた頃と比べると,落ち着いてきたが誤解も目にする.WCAG2.0では,具体的な方法が述べてありより実施しやすくなっているが,まだ納得できない部分もあると思う.乱暴な言い方をすると,これを数値基準のたたき台としてよりよい基準に向かっていくと良いと思う.

・例えば,コントラスト比を本当に客観的な数値を決められるのか?個人差があるのでユーザ特性を反映して決めて欲しい.日本のJISでもディスプレイについて決めている.実際に試したことがあるが,やはり50% という数値は意味がある気がする.しかし,科学的根拠はうすいので個人差を考慮しなくてはと思うが,すべて50%にするとどのデザイナーが作っても同じページができてしまう.

・ガイドライン策定側として言うと,50%は決まっているので従ってください.しかし,実際のコントラスト比はユーザ環境によって異なるため,フォントなどと違い個人環境でうまく調整できないのが問題なのかと思っている.もともとアクセシビリティは個人によって変えられるようにする,というのがガイドラインの考え方だったと思うが,閾値を持ち出す必要な実情があるのか.

・ガイドラインによって画一的なページになってもよいのかということを考え始めている.このような拘束は,webの健全な発展を妨げるかもしれない.例えば,最近知的障害者に対して絵がよいとか文字がよいとか一つのコンテンツでは満足させられない.ユーザでカスタマイズするというのがこれからの鍵になるのか.一つの切り口として,最近のアプリケーションとかにどうアクセシビリティが対応できるのかという話がある. ajaxが出てきたときに本当にどうしたらよいのか困った. Webの進歩なのでそれに対応したアクセシビリティはどうしたらよいのか.

・ヒューマンインタフェース系の会議に投稿すると,被験者数が少なすぎて話しにならない.恩恵を受ける人が少なすぎるという返事が返ってきて驚く.アクセシビリティをしている会議を大事にしたい.活動していける学会を育てていくべきでは.私はあまり日本で投稿しないようにしている.読む人はアクセシビリティの専門家ではなく,例えば音声合成の専門家. AssetsやWeb for allなどに出すとわかっている人が読んでくれる.被験者が少ないとかそういう場で闘っても仕方がない.

・一般的な研究をしている人は,正常な人何十人を集めることに慣れている.そういう人と話すと同じ問題に直面する.しかし,ロービジョンの平均値というのは出せない.やはり,査読では3人ではだめといわれる.医療系だと事例報告というのがあるので,サンプルではなく少数事例として出すこともできる.まず目隠しした大学生で実験をする.ロービジョンでもわざと低下してやる.それで傾向がわかった後で事例を少しずつ出してやる.後天的な障害の場合は,中身は一緒で知覚にフィルターがかかっていると考えられる.アメリカのロービジョン研究者がやっていた手法.

・被験者数が一人が100人になったから良い結果が出るとは言えない.考察でうまく書いていくしかない.我々も健常者で実験をして,最後は少数の障害者で実施する.増やすと統計処理がしやすい.一般のユーザビリティではそれがいえる.しかし,障害者向けでは分散が多くなる.視覚障碍者でいうと,経験の違いなど定性的な話ならできるが,個人差などは吸収できないのでは.

・被験者内で実験を終わらせてしまうか?医療系でとられる方法で単一実験法がある.一人の被験者に対してベースのデータを多く取って分散を知る.ただし個人に対する負担が大きい.Webの場合は,初めてでなくてはいけない,学習するとまずいタスクもある.大学生にやらせるときは,学習効果が終わってから実施する.そういう意味でもやはりコンテンツが難しい.ベンチマークテストのような皆でコンテンツを集めていくという方法もある.

・視覚障碍者向けのボランティアをしているが,教えるときはいつもマンツーマンで同じやりかたでできない.先ほどのような話のように、カスタマイズができればよい.標準化なんていらないのでは,と極端に言うと思う.

・以前「情報福祉の基礎」という研究グループがあったが,その評価のとき介護の人に聞けばデータが集まるのではという意見で唖然とした.課題によって工夫するしかないだろうという話になった.質的研究については最近本も出ている.ところで,福祉の問題は社会的な重要な問題でありながら,経済・環境などと比べてないがしろにされている.福祉の問題はやはり少数データをどう扱うかになる.それは,多くのデータを集める従来の物理分野からの問題とは違うことを,社会的に認めてもらわなくてはいけない.また,問題が多岐にわたり横断的な分野である.社会の主流になっている電気工学などではなんとか方程式とか柱になるものがある.福祉の分野でも横断的に柱になるものを10年がかりで作るというプロジェクトが工学アカデミーである.そのような場で福祉の問題を考えているので,今日の話もそこに反映していきたい.難しい問題なので10年単位で考えていくことになるだろう.医療系の話もあったが,難病の薬の場合も被験者が少ない問題があるらしい.このような人を対象にした研究分野の方法を考えていきたいと思う.


以下は、談話会の写真です。

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